手軽なのに効率が良い つくづく“ちょうど良い”塗り絵
- by 池谷裕二 薬学博士 / 脳研究者
- 大脳生理学をご専門とされながら、海馬の研究を通じて脳の健康や老化について探求をつづける池谷裕二先生に、塗り絵を脳や生理学の観点で見たとき、どんな特徴が見えてくるのか聞いてみました。 脳についての最新の研究成果を交えてお話ししてくださる先生の「塗り絵観」が、本イベントに興味を持っていただくきっかけになることのみならず、塗り絵を教材として使用される学校関係者の皆様のご参考になれば幸いです。ぜひご一読ください。
誰でも気軽に集中できる、幸せへの道
- 塗り絵の特徴をどうお考えですか?
- とにかく“誰でも気軽に集中できる”というのが塗り絵の大きな特徴だと思います。“集中した状態”は、数字を使ったパズルや、テニスのような運動でつくることができ、嫌な感情を一時的に忘れさせてくれるのでストレス解消になります。ただし、3歳児に数字のパズルはできないですし、テニスをするにはテニスコートに行く必要がありますし、そういった意味で、運動神経や特殊な才能も必要なく“集中”を生み出す方法として、塗り絵はとても取り組みやすいと思います。 しかも塗り絵は達成感を得られますし、やればやるだけ上手になるから、成長を感じて充足感を得ることもできます。「充実した時間を過ごしている」という実感の多さが人生の質を高めることだと私は考えていますので、塗り絵は手っ取り早い幸せへの道、とも言えますね。
脳の研究者だからこそ感じる塗り絵の“ズルさ”と“ちょうど良さ”
- 脳の視点から塗り絵をみるとどうでしょう?
- 脳には見たものを記憶する“入力”と、その情報を取り出す“出力”の2つの機能があるのですが、“出力”がとにかく重要である、とこの15年で頻繁に言われるようになりました。どんなに記憶していても、覚えたことを試験でひとつも出せなかったら0点ですから。 そして塗り絵は思い描いたことを紙に出す行為ですから “出力”です。しかも絵を描くよりも手軽に取り組めて、私含めて絵が下手な人でも出来るところも良い点かと思います。
- さらに、脳は一部の情報が欠けているとそれを“補完したい”という本能が働くことが知られています。「パターンコンプリーション」と呼ぶのですが、これはかなり原始的な本能で、たとえばジャングルを歩いてる時、トラの右肩だけ見えたとしたら、「右肩だけだからトラではないな」と無視したら危険ですよね。右肩だけでも見えたら「トラがいるかもしれない!」と警戒しないといけない。 さらにわかりやすいのは、お茶碗を落として割ったとき、拾っていったん繋ぎ合わせてみる、ということをほとんどの方がすると思いませんか?あの行動には何の意味もなくて、そのままさっさとゴミ箱に捨てれば良いのに、つい繋ぎ合わせてしまう。これらは「パターンコンプリーション」で説明がつきます。欠けているものを“補完したい”という本能が働いているのです。 塗り絵の下絵には色がないですから、欠けている色を「塗りたい!」と本能を刺激する、老若男女を集中させてしまうズルい仕掛けがあるとも言えるかもしれません。 誰でも気軽に取り組めるのに、本能まで刺激する、つくづく塗り絵は“ちょうど良いな”と脳を研究する立場の人間としては思ってしまいます。
“誰かと一緒に”で本能を喜ばせながらコミュニケーションに繋げる
- 例年、友人と・家族と・3世代以上で、など、周りの方と取り組む方も多いのですが、塗り絵を複数人で取り組むことについてはどう思われますか?
- 脳的に言うと、人間は何かを“誰かと一緒にやる”ことが本能的に好きな動物です。これは他の動物には見られないことです。考えてみれば、スポーツでも、個人戦で成立するのに、団体戦がある競技がたくさんありますよね。 この本能は、何かを一緒に成し遂げるのではなく、“ただ同じ体験や空間を共有するだけ”でも満たされると言われています。過去の実験で、美術館で絵を観ているときに、一人で絵を鑑賞しているときと、赤の他人でも同じ空間に人がいるときでは、人がいるときの方が、絵が心に染みる、というものもありました。 だから、おじいちゃん・おばあちゃんとお孫さんが「ここまで塗ったよ」と見せ合いながら塗り絵をするような、そういったコミュニケーションがあっても良いですね。
「すごい」「頑張ったね」ではなく作品自体を褒める
- 塗り絵をはじめ、一つものに飽きずにお子さんに取り組んでもらうために、お子さんへの接し方で気をつけたいことはありますか?
- 「すごいね」「がんばったね」と褒めないことが大事です。 そもそもは“塗り絵をやりたい!”と思って塗り絵をした子どもに 「すごいね」「がんばったね」と褒めてしまうと、その子の脳は“誉められたいからやった”と思い込み、とたんに塗り絵への興味を失ってしまいます。 そのため、塗り絵をやって持ってきても、塗り絵をした行為を褒めるのではなく、「この色、好きだわ」のように個人の感想を述べたり、作品を褒めるようにした方が良いと思います。
コロリアージュコンテストが、言葉ではない人と人との繋がりを生む可能性
- ダス犬コロリアージュコンテストに寄せて一言お願いします
- 脳というのは非常にバリエーション豊かで、自分と他人ではもちろん違いますし、同じ人の脳でも、朝と夜、落ち込んでいるときとハッピーなときでもまったく異なります。塗り絵はその時の脳の状態を表すでしょうから、塗り絵がいわば自分の来歴になるとも言えます。だから、“今の自分をここに残す”ということで塗り絵に向き合うのが良いのではないかと思います。 それから、同じ下絵でいろいろな着色を何回かやってみる、というのも良いですね。きっと、いろいろな自分に気付けるでしょう。 あとは人が塗った塗り絵を見て、その人がどんな状態で塗ったのかを想像してみるのも面白いと思います。
学校の先生の声
-
「STREAM教育」に力を入れるべく、想像力と表現力が大事であることを生徒に伝えたいと思い、授業での取り上げや美術部の課題化を決めました。固定概念にとらわれず、イメージしたありのままを表現し、自分の思ったことを出し切るつもりで取り組んで欲しいと思っています。
日出学園中学校・高等学校 石川茂教諭
-
幅広い学びの機会を設けようと、授業での取り上げと学内での設置を決めました。「社会に開かれた教育課程」を重視する本校の考えにも一致していると思っています。生徒には、正規の授業の枠にとらわれない自由な発想を持って取り組んで欲しいです。
武蔵野中学高等学校 小尾沙織教諭
-
コンテスト出品作品もポートフォリオに掲出するように薦めており、今回のコンテストも広く呼びかけ、アート教育・就職支援の一環にしたいと思っています。 ベースは同じ下絵であっても、塗り方や配色等、アレンジによって全く異なった作風になることが楽しみです。
四国大学 上野昇 准教授(アート・デザイン学)
応募方法
-
Step1: 学校教育機関の代表者様にて、
塗り絵作品を集めてください。
※エントリー部門・ニックネーム・誕生日・
一言コメントは作品制作者本人の情報を
記入してください。
※電話番号は、応募団体(学校など)の
番号を記入してください。Step2: 団体応募用紙を記入してください。
Step3: 作品と団体応募用紙をひとまとめにして、
下記まで郵送で応募してください。※団体応募は、郵送のみの受付となります。
〒564-0051
大阪府吹田市豊津町1-33
株式会社ダスキン
「第4回 ダス犬コロリアージュ コンテスト
事務局」宛